「無心」は多様なコンテクストから語られ,その曖昧性と多義性に厚みを持つ。コロナ禍も一服した今,本年度のシンポジウムは「無心」に加えて新たに「いき(九鬼周造)」をコンセプトとして立ち上げ,この両者を映し鏡としつつ「無心」像へと迫りたい。はじめに言語芸術は川柳の"おもろさ"を予測するAIについて,自然言語処理のモデル構築によって得られた最新知見を紹介する。続いて身体性は,伝統芸能の「能」とその熟達化過程について,とくには内受容感覚の観点から「無心」の周縁部へと迫る。また身体競技における「無心」の構成要素について,自己志向性等の個人差を取りあげて考察する。さらには先端技術により自己主体感を人為的に操作すると「無心」に内包されるリスクが露わとなる過程を指し示す。そうして得られた知見を総合し,「無心」に通底するグラデーションを光と影の両側面から描きつつ,ポストコロナ時代を生きる知恵の一端を掴むことができれば幸いである。
日本心理学会将来構想検討委員会太田 信夫丹野 義彦田島 信元野島 一彦岩﨑 庸男市川 伸一