論考の動機は、在日韓国・朝鮮人の社会で巫俗信仰が流行しているのは、如何なる社会的背景にあるのか、巫俗を通じて何を求めているのかにある。そこで本稿では、在日韓国・朝鮮人社会での巫俗信仰の意味を再吟味し、その中で、現世利益信仰だけではなく、アイデンティティの再確立をはかる機能をもつものとして、巫俗信仰を取り扱うことにしたい。この問題は、本国・(韓国) の場合と在日韓国・朝鮮人の社会の場合とは違ってくるというところが興味深い。朝鮮寺の最大の特徴とも言える仏教と巫俗との習合という在り方とも絡んでおり、そこには韓国的な要素や日本的な要素、そして独特の要素が見受けられるのである。このような要因を明らかにしようとするのが本稿のねらいでもある。ここでは、生駒山地の「大興寺」で行われた三つの事例を取上げる。そして、クッを依頼する信者の立場から、つまり、願主の生活史を中心にのべながら、クッを依頼する目的や動機、依頼者の世代と性別、出身、職業などの点から、典型的にみられる信者のタイプを分類してみることにする。最後に、在日社会における巫俗信仰の意味と機能を論じることによって、在日社会の典型的なものの一つとして巫俗文化を裏付けることができると思われる。また、このような研究が、在日社会だけではなく日本社会を理解するためにも大いに有意義であることも示せれば甚幸である。