統計データの質を決定する要因はいくつかあるが,その中で,ともすれば見逃されがちなのは,統計調査の実務に携わる人々の資質であろう.本稿は,明治30年代以降に地方官庁によって実施された統計講習会について調べることを通じ,この点をあたう限り具体的に描き出すことを目的とする.『統計集誌』の記事および福島県行政文書などの資料から判明する事実の大要は,以下の通りである.①1900年から1911年までの10年余の間に,全国で統計講習会参加者は16000人以上に上った.②受講生の多くは県や郡市の書記であったが,彼らは,講習終了後,今度は自らが講師となって,各々の所属する郡市で講習会を開催した.講習会参加者は,この間接的なものも含めれば,当時の各市町村に最低1人ずつ程度の数になる.③多くの講習会で,横山雅男『統計通論』が,教科書として用いられた.同書は,当時の日本における統計実務担当者にとり,事実上の標準としての役割を果たした.それと同時に,今日われわれが歴史的統計データの諸系列を用いるばあいにも,それらが編成される際のバックボーンになった理論を明示的に知りうるという意味を持つ.