この論文は、龍樹の思想を研究した。龍樹の思想は縁起にあることを示す。龍樹の思想とはこういうことである。仏法では「如」を頻繁に説く。如とは縁起のことである。ありとあらゆるものは、相互依存(縁起)し、脈絡し合って存在する。われわれは、独立したものとして存在し、周囲もまたそのように存在すると思っているが、実際はそうではない。先行研究として、中村元の『龍樹』を選択した。中村は龍樹の思想を詳細に分析し、龍樹の思想を縁起に集約させた。中村は縁起を概念領域に限定し、考察した。中村は縁起を思考し、縁起は各自が体得するほかないと考えた。この論の特徴は三つ。ひとつめは、中村の提示した縁起観を踏まえ、経典からの引用に依って、縁起の領域は、概念領域ばかりではなく、自然的存在領域に及ぶことを提示した。ふたつめは、中村は〔仮=空=中道〕とし、中道を上位に置くことを批判した。この論では、中村の主張を認めつつ、説明の便宜として、中道を上位に置くことを認めた。みっつめは、ありとあらゆるものは、意識によって独立して見えているが、実は縁起ゆえに未決定で脈絡し合ってあり、この状態を見極めるのが智慧の眼であることを示した。