戦後の民主主義的教育の流れの中で、権威の問題を論じることは時代錯誤としてとらえられることさえあった。戦前における、国家のための教育に対する反省が大きな要因であったといえるだろう。しかし親と子、教師と生徒との間などでなされる教育活動において、「権威的なもの」が全く介在せず、それがなされることを想像することは容易ではない。教育的関係を相互が対等で対称的なものとしてのみとらえることは、現実を無視したものといえる。そこで本稿では、権威を考察する一つの手がかりとして、カール・ヤスパースの権威論を取り上げる。彼によれば権威は決して固定的なものではなく、自由・信頼などとの緊張関係の中にある、動的で歴史的なものなのである。それは、教育学の中でこれまで繰り返し問われてきた自由・信頼といった概念を、より現実的な形でとらえることにもつながっていくであろう。その意味からも、より広く人間形成という視点のもとで権威をとらえていく。激動の時代を生きたヤスパースの権威論に学びながら、権威の現代的な意味を問い直していきたい。